第1回 プロローグ 開発の軌跡
「康彦!東京に出てきて金型をやらんか?」池上金型(埼玉県久喜市)の池上恵造社長(現・会長)を友人にもつ工務店を営んでいた叔父が、手先が器用な筆者の父親にささやいた。この一言が筆者と金型の最初の出会いである。
町工場の密集する大田区蒲田に近い矢口の渡し(東急目蒲線)で、有限会社都南金型製作所が設立され、父・康彦は工場長に就任した。1960年、筆者が中学2 年生、14歳のときである。高校生になると見習い職人たちに、金型の図面を書いてここがキャビティ、コア、これがスプルーだと金型構造を教える教育係を担当した。