第36回(番外編4)官邸訪問

1987 年、自立化への製品第1号ユニット金型(カセット金型)【コマンドシステム】を開発して以降、それなりの数の表彰をいただいている。掲げてきたのは「自立する中小企業」。ここで言う自立とは、受注(賃仕事)での自立でも、仕入れて販売(商社)としての自立でもない。“自前で創造したマーケット”で“自前で開発した製品”を販売し、存続する企業を言う。接待漬けおよびお金で買える設備にて受注し、それから得る利益と、開発リスクと戦いながら得た利益は例え同額であっても評価は価値観と思想により異なる。悩ましいのは開発点数と表彰回数と心の豊かさが伴わないこと。

最初の受賞は1991年に開発上市した全手動式射出成形機【ハンディトライ】。当時の通商産業大臣から「グッドデザイン賞」をいただいた。筒状のスリーブ内で溶融した樹脂を手動式プランジャにて金型内に射出する成形機だ。力任せにプランジャを押し込んでも樹脂は射出されない。プランジャの動きと溶融樹脂が「同期する」タイミング(溶融樹脂の液状化)を手動で探り、一気に押し込むと、樹脂は簡単に金型内に射出され、あたかも自身が樹脂となり金型内を駆け巡る様子が腕から伝わる。すべての技術者が忘れているであろう、この感覚およびこの感性。本質を直視した開発には不可欠な要素だ。しっかりプランジャを押し込み数秒停止すると保圧となり、停止位置からさらに押し込むと2次圧となる。うまく探り当てると、腕の力だけで投影面積50tクラスの成形品が容易にできる。

全文を読む